トレースの話をしよう【ブログ】

トレースの話をしよう。


主に、コンピューターが普及しだしてから社会に出た皆さんへ向けて、バブル期社会デビュー組から…

年末、会社の不用品を廃品業者さんにお願いするタイミングで、不要となったA2迄透過可能のトレース台を戴きました。主に絵をトレースしたり、フィルムを確認したりする為の道具です。
子どものころからトレースして清書をする類だったので、自作したり、小型のものを譲り受けたり、ペンタブレットでパソコンに取り込んだりしていましたが、つい懐かしさから戴いてしまいました。

トレース台は、今でもお高いですよ。マンガ向け製品として市場に出ていますが、現行品はLEDを使用し、ワコム社のペンタブレットと変わらぬお値段です。

このトレース台と、机自体が光るライトテーブルという品物、90年代前半までは業務上の必需品でした。
マンガ・写真・デザイン・雑誌など、主だった編集の現場で用いられていましたので、マッキントッシュなどが普及する様になるまでは、どこの現場でも、この逆光の上で作業をしていました。
写真も「紙焼き」や「データ」では無く、「ポジのリバーサル・フィルム」での入稿が主流でしたので、透過して拡大鏡で細部を確認していました。
ライトテーブルは、フィルム状の原稿を透過して確認及び作業を行う為のテーブルで、硬質ガラスを用いた製品は直接カッターを使用する事にも耐えた為、印刷過程の一つであったフィルム版を加工する通称『製版屋』には、まるで学校の教室の様にずらりと並んだテーブルの全てがライトテーブルという、変わった光景が有りました。

その昔…パソコンが普及する前の時代の90年前半頃まで、グラフィックデザイナーが独立する際の必需品として、「拡大・縮小が出来るトレース台」というものが必需品でした。少なくとも、自分の関わった会社では。

「やっとトレース台が手に入りました。これで晴れて独立ができます」なんて言っている先輩が居ました。
「幾らくらいするもんなんですか?」と聞くと、「本体は15万程ですが、なんやかんやと便宜も含めて30万程かかりました」と。

「え?コピー機でいいじゃないか」って?
拡大・縮小が出来るコピー機を出入りの業者が卸す様になったのはほぼ同時なんですが、若干後です。初期のものはコストも高く、使い勝手も質も良くありませんでした。
90年前後のコピー機って、アナログからの移行期だったのか、デジタルで解像度が低いものをリースしていた所が多かったように思います。
直線がガタガタだったり、途切れたりしていましたし、セロハンのテープを貼った部分が真っ黒になったりしたんです。買い取りかレンタルか、トナーなどの消耗品は幾らかって前に、性能と費用が駆け引きしている最中でした。まだ手作業の方が都合のいい時代でした。

「パソコン一式買ったって、行う業務が限定されていれば30万位の投資で済むのでは?」って?
それはかなり近年です(昨今は業務に耐えうるパソコンの価格がまた高くなって来ましたが)。
90年代前半のパソコンは、ソフト及びフォント)も周辺機器も無い素のハードのみで三桁万円であり、「ウチはデザイナーの席一つ当たり二千万」とか、「デザイン室に一億五千万」なんていう経営者の桁違いの自慢話が横行していた時代です。後年、2000年代半ばに行った仕事先で「10万で君の席を用意したよ」と言われた時は、新品のDELLパソコンと未開封のソフト一式の前で昔を懐かしみ一人涙しました…。

「拡大・縮小が出来るトレース台」ですが、『いづみや(現在のToo)』が『デザインスコープ』という暗幕で囲われた機械を販売していました。現場によっては『トレスコ』って呼んでました。
1975年(昭和50年)から販売された機械で、本来は『紙焼き機』です。
『紙焼き』、この紙とは印画紙であり、印画紙に焼き付けるための機械なんですが、印画紙と言っても、写真の印画紙では無く、かつて印刷工程で存在した『版下』という『紙版』に用いるための印画紙です。
『紙焼き』までは、デザイン事務所で行っていました。欧文書体清刷集や、書いたり組んだりした文字を拡大縮小して印画紙に焼き付ける為の機械です。『写植(写真植字)』の発注と原稿へのとりまとめも、デザイン事務所からその直下の外注先である『版下屋』の仕事です。
この機械、他の使われ方もありまして、「像を拡大・縮小して台に投射」出来たので、その像を鉛筆でなぞってトレースし、『写真アタリ』として用いました。
写真用の「フィルム引き延ばし機」でも同じ作業ができますが、写真に造詣が深いわけでもないグラフィック・デザイナー出の人間には『デザインスコープ』系統の方が慣れと親しみもあり、人気でした。
(徐々に『紙焼き機』の方が進化・小型化して暗室が不要になっていて、デザイン事務所での暗室は、トレースの為となって行きます)

今では、印刷物に使用している写真は『印刷に用いる本物の画像』を最初からはめ込んでいますが、十と少し前までは『低解像度の差し替え画像』でした。更にもっと前、手作業の時代は『鉛筆でアウトラインをなぞり、品番と拡大・縮小率を手書きで明記』したものでした。

この作業、現場によっては「アタリ取り」とか「トレースダウン」などと言っていました。
トレーシングペーパーで版下の上に載せた、文字の細かな支持を書いた『文字指定紙(版下指示書)』などの他に、上質紙などに書かれた『アタリ指示紙』が別途存在し、それが写真の指示書となっていました。(透過できるので、高価であるロール状トレーシングペーパーを用いる必要がありません)
デザイン事務所や個人のデザイナーなどは、この『アタリ指示紙』と、大量の写真ポジが入った封筒を『製版屋』に依頼していました。

日本でかつて『スキャナー』が沢山市場に出回り売れた理由は、この工程やリバーサル・フィルムをスキャンする人が結構多かった事にも起因するんでしょう。そして、電気店からスキャナが減った理由は、昨今は写真が初めからデータだからでしょう。

ちなみに私、かつて就いていた職場が「版下屋・写研写植屋・電算写植(親指シフト)屋・製版屋・出力屋」(全て専業)に居たことが有ります…。全ての会社で、その当時主要業務であったそれらは行っておりません。

♪そんな“仕事”もあったねと いつか話せる・・・♪

写真は『いづみや(現在のToo)』の『デザインスコープ』
※昔からカタログや資料にも掲載していた商材写真

ご参考までに:
【株式会社Too 11のストーリーで読むTooの歩み】
http://www.too.com/company/ayumi.html#3


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